
暗号資産の総平均法と移動平均法はどちらを選ぶべきか:届出の期限と変更の手続
個人が暗号資産の売却益を計算するとき、売った暗号資産の取得価額は総平均法か移動平均法のどちらかで求めます。何も届け出なければ総平均法によることになり、移動平均法を使いたいなら、原則として、その種類の暗号資産を最初に取得した年分の確定申告期限までに税務署へ届け出なければなりません。いったん選んだ方法を変えるには税務署長の承認が要り、その申請は新しい方法を使いたい年の3月15日が期限です。
二つの方法は所得税法施行令が定めている
所得税法48条の2第1項は、暗号資産の雑所得や事業所得を計算する際に、年末に持っている暗号資産の価額を、本人が選んだ評価の方法で評価すると定めています。選べる方法の中身は政令に委ねられ、所得税法施行令119条の2第1項が総平均法と移動平均法の二つを挙げています。個人が使える方法はこの二つに限られ、先入先出法のような別の方法を選ぶ余地はありません。
総平均法は、同じ種類の暗号資産について、1月1日に持っていた分の取得価額の総額と、その年に取得した分の取得価額の総額を合計し、それを総数量で割った額を1単位当たりの取得価額とする方法です。
移動平均法は、同じ種類の暗号資産を買い増すたびに、そのとき持っている分と新たに取得した分の数量と取得価額から平均単価を計算し直す方法です。取得のたびに単価が改定されたものとみなし、年末に最も近い時点で改定された単価がその年の1単位当たりの取得価額になります。
同じ取引でも、その年の利益が変わる
具体的な数字で比べてみます。ある年に、BTC について次の三つの取引だけをしたとします。前年末には BTC を持っていなかったものとし、手数料は考えません。
- 2月に 1 BTC を 400万円で購入した
- 5月に 0.5 BTC を 300万円で売却した
- 8月に 1 BTC を 800万円で購入した
移動平均法では、5月の売却の時点で持っている BTC の単価は 400万円です。売った 0.5 BTC の取得価額は 200万円となり、利益は 100万円になります。8月の購入で、手元の 0.5 BTC(取得価額 200万円)と新たな 1 BTC(800万円)を合わせた 1.5 BTC の取得価額は 1,000万円となります。翌年に繰り越す取得価額も 1,000万円です。
総平均法では、その年に取得した 2 BTC の取得価額の合計 1,200万円を 2 で割り、1 BTC 当たり 600万円とします。5月に売った 0.5 BTC の取得価額は 300万円となり、この年の利益はゼロになります。年末の 1.5 BTC は 900万円と評価され、これが翌年に引き継がれます。
同じ取引なのに、この年の利益は移動平均法で 100万円、総平均法でゼロと差が出ます。総平均法では、5月の売却の損益が8月の購入価格に左右されることにも注意が要ります。
もっとも、この差は2年間を通してみれば解消します。翌年にこの 1.5 BTC を合計 900万円ですべて売ったとすれば、移動平均法では 100万円の損、総平均法では損益ゼロとなり、2年間を通した利益はどちらも同じになります。どちらの方法も取得にかかった金額を最終的にはすべて売却原価に振り分けるので、保有する暗号資産をすべて売り切った段階では、利益の総額は変わらないはずです。二つの方法で変わるのは、利益を計上する年です。
暗号資産の売却益は原則として雑所得になり、他の所得と合算して、所得が多いほど高い税率がかかる累進税率で課税されますから、同じ利益でも、どの年に寄せられるかで税額は変わりえます。加えて、雑所得の損失は給与所得などと損益通算できません。損益通算を定める所得税法69条1項が対象にしているのは不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の損失だけだからです。上の例で翌年に計上される移動平均法の 100万円の損は、給与所得など雑所得以外の所得から差し引くことができません。
評価の方法は暗号資産の種類ごとに選ぶ
所得税法施行令119条の3第1項は、評価の方法を暗号資産の種類ごとに選ぶことを求めています。BTC は移動平均法、ETH は総平均法というように、銘柄ごとに別の方法を選ぶこともできます。
なお、所得税法施行令119条の2第2項は、暗号資産を購入し、売却し、または種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要な、それらの暗号資産以外の暗号資産の取得を、平均単価の計算の基礎となる取得に含めないとしています。例えば、暗号資産Aを買うために、取引の仕組み上いったん別の暗号資産Bを取得し、すぐにAに替えるような場合には、Bの取得は平均単価の計算に入れないことになるでしょう。
届出の期限は、最初に取得した年分の確定申告期限
所得税法施行令119条の3第2項によれば、暗号資産を取得した居住者は、その取得の日の属する年分の確定申告期限までに、よるべき評価の方法を書面で所轄の税務署長に届け出なければなりません。前年以前に同じ種類の暗号資産について届け出るべきだった場合は除かれていますから、届出が問題になるのは、その種類の暗号資産を初めて取得した年です。ただし、同条3項により、上に述べた一時的な取得は、ここでいう取得にも含まれません。
届出をしなかったときは、所得税法施行令119条の5第1項により総平均法で評価します。移動平均法を使いたい人にとっては、最初の年の確定申告期限を過ぎると、次に述べる変更の手続を踏まない限り総平均法から離れられないことになります。
では、届け出ないまま移動平均法で計算して申告した場合はどうなるでしょうか。所得税法施行令119条の5第2項は、本人が行った評価の方法が法令の定める方法のいずれかに当たり、それによっても所得金額を適正に計算できると税務署長が認めるときは、その方法で計算した所得金額を基礎として更正や決定をすることができると定めています。したがって、届出を欠いたことだけで直ちに移動平均法の計算が否定されるとは限りません。しかし、これは税務署長にそうすることを許す規定であって、本人に権利を与える規定ではありません。移動平均法を使うつもりなら、期限内に届け出ておくべきでしょう。
変更には承認が要り、申請の期限は3月15日
選んだ方法を変えるには、所得税法施行令119条の4第1項により、所轄の税務署長の承認を受けなければなりません。届け出ずに総平均法によっている人が移動平均法に切り替える場合も同じです。
手続は、棚卸資産の評価方法の変更について定めた所得税法施行令101条2項から5項までが準用されます。新しい方法を採用しようとする年の3月15日までに、変更の理由などを書いた申請書を提出します。今の方法を採用してから相当期間を経ていないときや、新しい方法では所得金額を適正に計算しにくいと認められるときは、申請が却下されることがあります。その年の12月31日までに承認も却下もされなければ、同日に承認があったものとみなされます。
この3月15日は、原則として前年分の確定申告の期限と同じ日です。
どちらを選ぶべきか
確かに、移動平均法には、売るたびに、その時点の平均単価で売却原価が決まるという分かりやすさがあります。年の途中で利益の見込みを立て、年内に損を出す売却をするかどうかを判断したい人には、移動平均法の方が扱いやすいでしょう。
しかし、取引の件数が多い人にとっては、移動平均法の計算は重くなります。買い増しのたびに単価を計算し直すので、取引の記録が欠けたり、売却と購入の前後を取り違えたりすると、その後の売却の損益がずれることがあります。スワップを繰り返せば、そのたびに暗号資産の譲渡と取得が生じますから、DeFi で何百回もスワップをするような場合には、この誤りの連鎖は無視できません。総平均法なら、年初に持っていた分とその年に取得した分の取得価額の総額と数量が合っていれば、同じ年の中での取引の順序にかかわらず単価は一つに決まります。
取引が多く、オンチェーンの記録を完全にそろえることに不安がある人には、この記事では総平均法を基本にすることをお勧めします。反対に、取引の件数が少なく、売却のたびに損益を確定させて年内の判断に使いたい人は、移動平均法を選ぶ意味があります。
よくある質問
届出をしないとどうなりますか
所得税法施行令119条の5第1項により、総平均法で計算することになります。
移動平均法の届出はいつまでに出せばよいですか
その種類の暗号資産を最初に取得した年分の確定申告期限までに、書面で所轄の税務署長に届け出ます(所得税法施行令119条の3第2項)。売買や交換の際に、その対象となる暗号資産以外の暗号資産を一時的に必要として取得する場合、その取得はここでいう取得に含まれません(同条3項、119条の2第2項)。
途中で総平均法から移動平均法に変えられますか
変えられますが、税務署長の承認が要ります。新しい方法を使いたい年の3月15日までに申請書を出し、その年の12月31日までに処分がなければ承認されたものとみなされます(所得税法施行令119条の4、101条)。
銘柄ごとに違う方法を選べますか
選べます。評価の方法は暗号資産の種類ごとに選定するものとされています(所得税法施行令119条の3第1項)。
どちらの方法でも最終的な利益は同じですか
保有分をすべて売り切れば利益の総額は変わりません。ただし、どの年に利益が計上されるかが変わるため、累進税率や損益通算ができないことの影響で、税額は異なりえます。
参考資料
- 所得税法 第48条の2、第69条(e-Gov法令検索)
- 所得税法施行令 第101条、第119条の2から第119条の5まで(e-Gov法令検索)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」令和7年12月
- 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」
この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の事案についての税務上の助言ではありません。ご自身の取引にどの方法が合うかの判断や届出の準備については、お問い合わせからご相談ください。
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